抜け漏れを減らす“型”を配布。
介護の現場では、どれだけていねいにケアしていても、申し送りで情報が正しく伝わらなければ、利用者さんの安心・安全が守れません。
「何から話せばいいのか分からない」「言ったつもりが伝わっていなかった」という経験がある方も多いのではないでしょうか。
介護職の方に向けて、申し送りの基本、伝わる順番、今日から使えるテンプレート、避けたいNGワードをわかりやすく解説します。
新人さんはもちろん、ベテランの方が後輩指導に使える内容もまとめていますので、「申し送りをもう一度きちんと見直したい」という方にも役立つガイドです。
申し送りとは?介護現場で必要とされる理由

まずは「申し送りって何のためにやっているのか」を整理しておきましょう。
申し送りの役割や、情報の抜け漏れが起きたときのリスクを知ることで、「なぜ正確さが大切なのか」が腑に落ち、日々の伝え方にも意識が向きやすくなります。
申し送りの基本的な役割
申し送りとは、シフトが変わるタイミングや担当者が入れ替わるときに、その時点での利用者さんの状態や対応内容を次の担当者に伝えるための情報共有です。
介護現場では、24時間体制で多くのスタッフが関わるため、誰が見ても同じように判断できる情報が必要になります。
申し送りには、次のような役割があります。
- 利用者さんの健康状態・生活の様子を共有する
- これまでに行ったケアや対応内容を引き継ぐ
- リスクや注意点を共有し、事故やトラブルを防ぐ
- 多職種(看護師・リハ職・ケアマネなど)との連携をスムーズにする
「申し送り=ただ話す時間」ではなく、「利用者さんの安全と安心を守るための大事な業務」と捉えることが、質の高いケアにつながります。
なぜ「情報の抜け漏れ」が問題になるのか
申し送りで情報が抜けていたり、曖昧なまま伝わると、次のような問題が起こる可能性があります。
- 本来必要なケアが行われず、体調悪化や転倒リスクにつながる
- 同じ質問や確認が増え、利用者さんの負担や不安が大きくなる
- スタッフ同士で「言った・言わない」のトラブルが生まれる
- ケアの方針がバラバラになり、チームの信頼関係が崩れる
特に、夜勤明けや忙しい時間帯は、どうしても「ざっくりした伝え方」になりがちです。
その結果として、大事な情報が抜けてしまったり、誤解されたりすることがあります。
だからこそ、「伝える順番」と「言葉の選び方」をあらかじめ決めておくことが大切です。
口頭+記録の併用で安全性が高まる理由
申し送りは、口頭だけでなく「記録」とセットで考えることが重要です。
口頭での説明は、ニュアンスや表情が伝わる一方で、聞き手の聞きもらしや勘違いが起きるリスクがあります。
一方、記録は形として残るため、後から見返して確認できます。
最近では、紙の記録だけでなく、タブレットや介護ソフトを使った入力が増えています。
「基本は記録で、補足を口頭で伝える」「特に重要な情報は、口頭と記録の両方に残す」という意識を持つことで、チーム全体での安全性が高まります。
伝わる申し送りの順番|基本の流れをわかりやすく解説
申し送りがうまくいかない多くの原因は、「話す内容」そのものよりも「順番」にあります。
ここでは、誰が聞いても理解しやすい基本の流れを紹介します。
結論から話し、事実を整理し、次に必要な行動を明確にすることで、短い時間でも要点が伝わる申し送りができるようになります。
① 状況の結論から伝える(結論ファースト)
最初に意識したいのは、「結論から話す」ことです。
悪い例として、次のような申し送りがあります。
「今日の朝食なんですけど、いつもより食事に時間がかかっていて、ちょっと様子を見ながら…」
これだと、聞き手は「結局どうだったの?」と判断材料をつかめません。
一方、結論ファーストだと次のようになります。
「本日の朝食は、Aさんはいつもの7割ほど摂取できました。ただし、食事にかかる時間は普段より10分ほど長く、咳き込みが2回ありました。」
このように、
- まず「結果(どうだったか)」
- 次に「いつ・どんな状況で・どのくらい」
という順で伝えると、聞き手は短時間で全体像をつかむことができます。
② 事実と観察ポイントを客観的に伝える
申し送りで大切なのは、「事実」と「自分の感想」を分けて話すことです。
例えば、
「Aさんは、なんだか元気がない感じでした。」
という伝え方は、主観が多く、聞き手によって受け取り方が変わります。
客観的に伝えるなら、次のように言い換えられます。
- 表情:笑顔が少なく、声かけに対して返事が小さい
- 行動:歩行時にふらつきがあり、「しんどい」と2回発言
- 食事:昼食は5割程度で、「あまり食べたくない」と話されていた
このように、「自分の感じたこと」ではなく、「目で見て分かる事実」「耳で聞いた言葉」を中心に伝えることで、次の担当者も同じ視点で様子を観察できます。
③ 対応内容と、次の担当者がすべきことを明確化
申し送りでは、「自分たちがすでに行った対応」と「これから必要な対応」をセットで伝えましょう。
例えば、
- こちらで行った対応:水分摂取をうながし、バイタルを測定した。特に発熱はなし。
- 次の担当者にお願いしたいこと:午後の間もこまめに水分摂取をうながし、夕食前に再度バイタルチェックをお願いしたい。
といった形で、「自分の担当時間で完了したこと」と「次のシフトに引き継ぐポイント」を分けておくと、聞き手も動きやすくなります。
④ 緊急度と優先順位を添えて伝える
複数の利用者さんの情報を申し送る際には、緊急度や優先順位も一言添えると親切です。
例えば、
- 「特に優先してみてほしいのはAさんです。」
- 「Bさんについては、注意して様子を見てほしいレベルです。」
- 「Cさんは大きな変化はありませんが、トイレ誘導の回数が増えています。」
といった具合に、「今すぐ対応が必要」「注意して見守る」「経過観察」などのニュアンスを加えておくと、次の担当者の動きがスムーズになり、ケアの優先順位も立てやすくなります。
今日から使える!介護申し送りテンプレート(例文付き)
ここからは、実際に現場で使える申し送りテンプレートを紹介します。
「急変時」「日常の様子」「項目別の申し送り」「新人でも使いやすい短いフレーズ」など、状況に合わせて組み合わせて使える形にしています。
丸暗記ではなく、自分の現場に合わせて少しずつアレンジしていくと、自然な言葉で伝えられるようになります。
急変時の申し送りテンプレ(安全性に配慮した表現)
急変時は、落ち着いて「いつ・どこで・何が・どうなったか」を整理して伝えることが大切です。
あくまで観察事実を中心にし、判断や診断は医療職に任せるような表現にします。
【急変時テンプレ例】
「本日○時ごろ、○○さんが居室で座位の状態から突然立ち上がろうとして、ふらついて転倒しかけました。幸い転倒はせず、すぐに職員が支えましたが、『少し気分が悪い』との訴えがありました。
その後、バイタルは血圧○○/○○、脈拍○○、体温○○℃でした。顔色はやや青白く見えました。現在はベッド上で安静にしていただいており、『少し楽になった』と話されています。看護師さんにはすでに報告済みで、今後の指示を待っている状況です。」
日常ケアの申し送りテンプレ
日常のケア内容も、主観ではなく事実ベースで伝えることで、利用者さんの小さな変化に気づきやすくなります。
【日常ケアテンプレ例】
- 食事:朝食は全粥200g中、150g摂取。おかずは3品中2品を完食。咳き込みはなし。
- 排泄:午前中にトイレ誘導2回。失禁はなし。尿量はいつもよりやや少なめ。
- 睡眠:夜間は0時~4時まで一度も起きず、その後4時と6時に1回ずつ覚醒。
- 表情・会話:声かけにはしっかり反応あり。笑顔もあり、冗談に笑われていた。
このように、「数字」「回数」「時間」など、具体的な指標を入れると、聞き手もイメージしやすくなります。
リハビリ・排泄・食事など分野別テンプレ
分野ごとにテンプレを持っておくと、申し送りの際に考える負担を減らせます。
【リハビリ】
- 本日午前、○○さんは歩行訓練を10分間実施。杖歩行で10m×2往復。途中で「少し疲れた」と発言があり、休憩をはさみました。
【排泄】
- 午後、トイレ誘導の際にズボンの上げ下ろしを自力で行われました。時間はかかりましたが、「自分でやってみる」と意欲的な様子でした。
【食事】
- 夕食は、主菜を半分残されましたが、「お腹いっぱい」との発言あり。特に痛みの訴えはありませんでした。
新人でも使いやすい短文テンプレ
新人さんは、いきなり長く話そうとすると緊張してしまうことも多いです。
まずは短いフレーズから慣れていくのがおすすめです。
- 「○○さんは、午前中は特に大きな変化はありませんでした。」
- 「トイレ誘導の回数が、いつもより1回多くなっています。」
- 「昼食時に、『少ししんどい』と2回話されていました。」
- 「こちらではバイタル測定まで行っています。数値は○○です。」
慣れてきたら、これらのフレーズに具体的な数字や時間を加えていくと、より伝わりやすい申し送りになります。
言い換えで伝わりやすくなる!避けたいNGワードとOK表現
申し送りの中には、「何となく使っているけれど、実は人によって解釈が違う言葉」や、「感情的に聞こえてしまう言葉」が紛れ込んでいることがあります。
ここでは、誤解を招きやすいNGワードを、具体的で伝わりやすい表現に言い換えるポイントを紹介します。
曖昧すぎて誤解を招くNGワード
次のような言葉は、聞き手によってイメージが大きく変わるため、できるだけ避けた方がよい表現です。
- 「なんか」「ちょっと」「けっこう」「いつもより」
- 「元気がない」「調子が悪そう」「落ち着かない感じ」
これらを使うときは、できるだけ具体的な情報に置き換えます。
- 「なんか元気がない」→「声が小さく、笑顔が少ない。」
- 「けっこう痛そう」→「腰の痛みを10段階中7と表現されていた。」
- 「いつもより食べていない」→「普段は完食だが、今日は主菜を半分残された。」
主観が入りやすいNG表現
申し送りは、あくまで「事実を伝える場」です。
「たぶん」「きっと」「○○な気がします」といった主観の強い言葉は、聞き手の判断を迷わせてしまうことがあります。
- 「たぶん眠れていないと思います。」
- 「きっとお腹が痛いんじゃないかと…。」
こういった表現は、
- 「夜間のトイレ覚醒が3回ありました。」
- 「お腹を手でさすりながら『少し痛い』と話されていました。」
など、「見た事実」と「聞いた言葉」に置き換えることを意識しましょう。
感情的・断定的な表現はトラブルの原因
「~すべきだった」「全然できていない」などの断定的な表現は、受け取る側の気持ちを傷つけてしまうことがあります。
また、責任の所在を強調するような言い方は、チームの雰囲気を悪くしてしまうこともあります。
- 「前の担当がちゃんと見ていなかったようです。」
- 「全然ケアができていません。」
こうした表現は避け、
- 「前の時間帯の記録には記載がありませんでした。」
- 「本日は予定していたリハビリが実施できていません。」
といったように、事実に焦点を当てて伝えるようにしましょう。
情報共有に適したOKワード・言い換え例
申し送りで使いやすいOKワードとしては、次のようなものがあります。
- 「回数」「時間」「数値」「具体的な行動」
- 「○○と発言されました」「○○と訴えがありました」
- 「○○のように見えましたが、詳細は看護師さんに相談しています」
これらの言葉を意識することで、客観的で伝わりやすい申し送りに近づきます。
伝達ミスを減らすためのチェックリスト
最後に、申し送りの前後で確認しておきたいポイントをチェックリスト形式でまとめます。
忙しい現場でも、要点だけをサッと振り返ることで、伝達ミスを大きく減らすことができます。
プリントしてスタッフルームに貼っておくのもおすすめです。
申し送り前に確認しておきたい3つの視点
申し送りに入る前に、次の3点を意識して情報を整理しておきましょう。
- ① 利用者さんの「変化」はどこか(昨日・前回との違いは?)
- ② その変化に対して、こちらが行った対応は何か
- ③ 次の担当者に「特にお願いしたいこと」は何か
この3つをメモに書いてから申し送りに臨むと、話が脱線しにくくなり、要点もまとまりやすくなります。
伝えた後に必ず確認したいポイント
申し送りは、「話して終わり」ではなく、「伝わったかどうか」が大切です。
可能であれば、次のような確認を行いましょう。
- 聞き手からの質問はないか
- 重要なポイントを復唱してもらう(「○○ということで良いですか?」)
- 記録にも同じ内容が反映されているか
このひと手間で、思い込みや聞き違いによるミスを大きく減らすことができます。
多職種連携の申し送りで意識すること(看護師・ケアマネとの情報共有)
介護職の申し送りは、同じ介護職同士だけでなく、看護師やケアマネ、リハビリスタッフなど、多職種との連携にもつながっています。
そのため、次のようなポイントを意識すると、よりスムーズな連携が生まれます。
- 「診断」はせず、「事実」と「利用者さんの言葉」を中心に伝える
- 看護師にすでに相談した内容や、指示が出ている内容を共有する
- ケアマネに情報が必要そうな変化(生活リズムの変化・ADLの変化など)を意識しておく
「どの職種が、どんな情報を必要としているか」を意識することで、申し送りの質はさらに高まっていきます。
新人介護職が陥りやすい申し送りの失敗例と改善ポイント
新人のうちは、「うまく話さなきゃ」と力が入ってしまい、かえって伝わりにくくなってしまうこともあります。
ここでは、よくある失敗パターンと、その改善方法を紹介します。
失敗は誰にでもあるものなので、責めるのではなく「次に活かすためのヒント」として捉えることが大切です。
話す順番が前後する
失敗例として多いのは、「結論」と「詳細」が前後してしまうパターンです。
【例】
「朝からずっと様子を見ていたんですが、食事のときに…(長い説明)…で、結果として朝食は半分くらいでした。」
改善策としては、
- 最初に「結果」(どうだったか)を一言で伝える
- その後で「いつ・どこで・どうなったか」の順で詳細を伝える
という型を意識することです。
「結論 → 詳細 → 次の対応」という流れに慣れておくと、緊張していても話がまとまりやすくなります。
主観的な表現が多くなる
新人さんほど、「自分の感想」をたくさん伝えようとしてしまう傾向があります。
【例】
「なんだかしんどそうで、ちょっと元気がないような気がしました。」
この場合、
- 「歩行時に、普段よりも歩くスピードが遅く、『しんどい』と2回話されていました。」
- 「椅子から立ち上がるとき、手すりにつかまる時間が長くなっています。」
といったように、「見たこと」「聞いたこと」に変換して伝えると、ぐっと説得力が増します。
必要な情報が抜けやすい
緊張していると、申し送り中に大事な情報を飛ばしてしまうこともあります。特に、
- 「いつ」
- 「どの場面で」
- 「どのくらい」
といった部分が抜けると、聞き手は状況を具体的にイメージしづらくなります。
これを防ぐためには、あらかじめ簡単なメモを取っておくのがおすすめです。
焦って早口になり伝わらなくなる
忙しい時間帯や、人前で話すことに慣れていないと、どうしても早口になってしまいます。
そんなときは、
- 「一文を短くする」(句読点を意識する)
- 「要点ごとに少し間を取る」
- 「メモを見ながら話す」
といった工夫をしてみましょう。
完璧な話し方よりも、「相手が理解しやすいスピード」を大切にすることで、結果として伝わる申し送りになります。
まとめ|正しい“型”を身につければ、申し送りは必ず上達する
申し送りは、介護職にとって欠かせない業務のひとつですが、最初から完璧にこなせる人はいません。
大切なのは、「結論から話す」「事実を客観的に伝える」「次の担当者が動きやすい情報を渡す」という基本の型を身につけることです。
また、曖昧な表現や感情的な言葉を避け、数字や回数、利用者さんの言葉を使って伝えることで、チーム全体のケアの質も高まっていきます。
本記事で紹介したテンプレートやNGワード一覧を活用しながら、自分の現場に合わせて少しずつアレンジしていけば、「伝わる申し送り」が自然とできるようになります。
今日からできる小さな工夫を積み重ねて、利用者さんにとっても、スタッフにとっても安心できる情報共有を目指していきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1.申し送りはどのくらいの時間でまとめるのがよいですか?
A1.施設やシフトにもよりますが、1人の利用者さんにつき、目安として1~2分程度で要点をまとめられるとスムーズです。事前にメモを整理しておき、「結論→事実→対応→お願い」の順番で伝えると、短い時間でも情報を共有しやすくなります。
Q2.新人で申し送りが苦手です。どこから練習すればよいですか?
A2.最初は「完璧に話す」よりも、「伝える順番」と「客観的な事実」を意識するところから始めましょう。この記事で紹介した短文テンプレを活用し、先輩にフィードバックをもらいながら少しずつ表現を増やしていくと、自信がつきやすくなります。
Q3.NGワードを完全になくす自信がありません。
A3.最初から完全になくす必要はありません。「なんか」「いつもより」「たぶん」など、自分がよく使ってしまう言葉を1つずつ意識して減らしていくと、自然と表現の幅が広がっていきます。言い換え例をメモしておき、申し送りの前後に振り返るのもおすすめです。
Q4.口頭での申し送りと記録の書き方は同じでよいのでしょうか?
A4.基本的な内容や順番は同じで構いませんが、記録は「後から読む人」がいることを意識して、より簡潔で分かりやすい文章を心がけるとよいでしょう。重要な情報は、口頭と記録の両方に残しておくと安心です。


コメント